Mosalogy

会社辞めてハーバードの大学院に来ちゃった感じ

がん細胞をやっつけるスパイというかスパイスというか (Immunity. October 16 2018)

mosaです。

少し前の論文なんですけどね。

 

ImmunityというCellの姉妹誌のうちで免疫学に特化した雑誌に、以下のような論文が掲載されました。

 

www.sciencedirect.com

 

(ちなみにこの論文は無料公開っぽい)

 

カリフォルニア大学バークレー校にある研究室からの論文です。

自然免疫というのは主にウイルスや細菌などの病原体に対しての初期応答という風に教科書的には捉えられていますが、そういった病原体の感染に限らず、細胞内のあらゆる異常な状態を感知して免疫細胞を活性化します。

 

 

cGASという分子は様々な細胞でその存在が確認されていて、細胞質内の二本鎖DNAウイルスを感知して抗ウイルスサイトカインに分類されるI型インターフェロン (Type I IFN) を誘導します。

 

誘導のメカニズムとしては、DNAに結合することで構造変化を起こしたcGASが細胞内のGMPとAMPという材料を使ってcGAMPという物質を作り、cGAMPがその下流でSTINGと呼ばれるタンパク質を活性化し、それによりType I IFNを誘導する転写因子の活性化を引き起こします。

 

 

背景知識がないと、たぶんなに言ってるかわからないと思います。

まあ要は細胞質に二本鎖DNAがあると、cGAS-STING経路が活性化されて抗ウイルス性のタンパク質が作られるということです。

 

 

実は、このDNAはウイルスである必要はないんです。

自分の細胞がもつDNAでもcGASは活性化されます。

 

「え、細胞ってDNA持ってるんだよね。じゃあcGASは活性化されっぱなし?」

という疑問も生まれそうですが、普段DNAは細胞のなかの核やミトコンドリアと呼ばれる小器官にギューっと詰め込まれているので、細胞質 (外の部分) には存在しないんですね。

 

けど、核やミトコンドリアが傷害されると、中身がちょい出てきちゃう。

こうなると、cGAS-STINGは活性化されてしまうわけです。

細胞内の異常な状態が自然免疫を活性化する、というのはこういうことです。

 

 

細胞のがん化も、もれなく異常な状態としてこいつらを活性化するわけです。

がん細胞で核からDNAが細胞質へ漏れ出てくるのが認識されてしまう、と。

 

こうやってがん細胞内でcGAS-STING経路が活性化することは、がん免疫にとっても大事。実際にがん細胞の中では、エピジェネティックと呼ばれるクロマチン修飾による遺伝子発現制御機構によって、cGASやSTINGの発現が抑えられたりします。

がんはこのcGAS-STINGの活性化によって自分が免疫系で殺されるのを防ごうとするわけです。

 

 

さて、がん免疫といえば最近ノーベル賞でも話題になったCTLA-4やPD-1。

細胞傷害性T細胞 (キラーT細胞) と呼ばれる細胞の膜状に発現しているブレーキタンパク質で、これらをブロックする薬は抗がん剤として有効なわけです。キラーT細胞が活性化してがん細胞を殺すので。

 

T細胞というのは抗原-抗体反応を利用する細胞で、攻撃対象が明確に定まっている場合に攻撃します。別の言い方をすれば、基本的には決まった相手しか攻撃しません。抗原特異的、みたいな言い方をします。

この抗原特異的な反応を起こすには、しっかりと相手を知る必要がある。これが抗原提示細胞に分類される樹状細胞のお仕事で、ざっくりいえばT細胞の活性化にはこの樹状細胞の仕事が必須なわけです。

 

だから今までは、がん組織内では抗原提示細胞のcGAS-STINGが何らかのメカニズムで活性化されて、抗原提示とともにキラーT細胞を活性化する。と思われていたわけです。

 

 

 

でも、実は細胞を殺す免疫細胞はT細胞だけではなく。

ナチュラルキラー (NK) 細胞という細胞があります。生まれながらの殺し屋、という名前の通り、こちらは抗原特異的ではなく、NK細胞を活性化する特定の条件を満たせばなんでも殺しちゃうよ、という細胞です。

 

もちろんがん細胞もやっつけます。そして、NK細胞の活性化のためにはI型IFNも大事。

この論文では、がん組織内でのcGAS-STINGによるIFNの産生がNK細胞の活性化を担うのではないか、というところから始まります。

 

 

まあここまでは普通っちゃあ普通ですね。

 

ただ結果は少し面白くて。

  • マウスにがん細胞を注射してその増殖を見てみると、STING欠損マウスだと通常のマウスよりもがん細胞が増殖しました。この差がT細胞非存在下でも起きたことから、どうやらSTINGはNK細胞を介したがん細胞殺害において重要っぽい、と。まあそうだよね、って感じもする。
  • ただ、cGAS欠損マウスと野生型マウスで同じ実験をすると、差が見られない。こうなってくるとわけわかめ、と一瞬なるわけです。だって、STINGを活性化するcGAMPはcGASが作るわけだから、cGASがないとがん細胞殺せないんじゃないの?と。
  • ここで考えられるのは、cGAMPはマウスの外からやってくる、という可能性。つまり、注射したがん細胞がcGASを持っている限りcGAMPは作られる。それが受け手のマウス細胞のSTINGを活性化してしまえば、マウスがcGASを持っていなくても、IFNは産生できちゃうわけです。実際に注射するがん細胞からcGASを無くしてみると、野生型マウスでもSTING欠損マウスと同じくらいがん細胞が増殖しちゃいました。また、cGAMPを直接マウスの腹腔内に注射しただけでも、NK細胞の活性化が認められました。

 

とまあ、こんな感じで、要はがん細胞が作ったcGAMPが非がん細胞に旅行して、旅行先で自然免疫を活性化するという。

 

どうやって旅行するかは定かではないですが、おそらく細胞内で形成された小胞がよその細胞に移動して取り込まれる、というのは言われているので、それを介しているのではないかと。

 

 

敵のcGAMPを利用して自分の自然免疫形を活性化する、という面白い結果ですね。

我々の生体も色々考えて作られていますね。

 

実は、似たような話は以前にも言われていました。がん細胞ではなく、ウイルス感染において。ウイルスが細胞内で増殖して細胞から飛び出て次の細胞へ移る時、cGAMPはそのウイルス粒子に入り込んでよその細胞へと移動し、そこで自然免疫系が活性化される、という。

 

3年前のScienceの論文かな。同じ号に二つのグループから出ていた気がします。

実験してみたら何度やってもうまくいかなくて、おかしいなーと思ってたら実はこういうことだった、みたいなセレンディピティ系の文調で面白かった気がします。

 

ああ、あったこれだ。

science.sciencemag.org

science.sciencemag.org

 

 

今はがん細胞に限らずこういった小胞輸送がなんかよくわからんけど面白そう、ということで着目されていますが、これを使って新たな免疫療法とか作れないかしら。研究テーマにできたりして。

 

まあ僕が考えるレベルのことはもうみんなとっくにやってると思うんですがね。