Mosalogy

会社辞めてハーバードの大学院に来ちゃった感じ

マウス脳内ミクログリアのシングルセルRNA-seq解析 (bioRxiv, Aug 31, 2018)

おなじみ、誰のためでもなく自分のために勉強のメモを書き残していくコーナーです。

 

一応毎回断っておきますが、内容が間違っていても責任とりません!

(僕そんなに頭良くないです。どっちかっていうと悪いです)

 

それでは。

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マクロファージという言葉は、もしかすると「免疫学」という授業を受けたことのない文系の方でも聞いたことがあるかもしれません。

これ、何かっていうと、我々の免疫において大事な細胞のことです。

 

なんかいろいろ食べちゃうやつですね。病原菌とかウイルスとか。

そんでもって周りのプロの殺し屋細胞を呼び寄せて攻撃すると。

いわば「親分、〇〇組の輩が表に襲撃してきました!うわーっ」とか言って奥の部屋のボスや先輩を呼び寄せるチンピラみたいな役目です。

 

いや、そっちの世界よく知らねえけど。

 

 

とにかくこのマクロファージ、実は食べるのは外敵だけじゃないんです。

『お掃除』って言葉を連想するとわかりやすいかと思うんですが、

 

「〇〇組のやつらは一人残らず掃除しちまえ!」

みたいな使い方もあるけど、普通に「お部屋のお掃除しないと汚いよ」みたいに言うじゃないですか。

 

要するに、とにかく自分の体にとって邪魔なものを片付けようってのがお仕事なわけです。だからチンピラっていうより家政婦さんですね。

 

 

ーーどっちだよ

 

このマクロファージ、細かいことは抜きにして骨髄 (bone marrow) の造血 (Hematopoiesis) だけでなく、胎児の卵黄嚢 (yolk sac) の造血でできる種類もあります。

こういうマクロファージは体の中を動き回らず、特定の組織で警備員かつ家政婦さんをやってます。肝臓とか脳とかね。

 

常在性のマクロファージにはそれぞれ名前があって、脳の (マクロファージ) みたいなやつをミクログリアと呼ぶわけです。

このミクログリア、胎児の時に脳に辿り着いてからというもの、いろいろな働きをするわけです。

 

脳みそって神経がいっぱい張り巡らされているじゃないですか。

これ、全部ぐちゃぐちゃにあるわけじゃなくて、ちゃんと意味をなして繋がっているわけです。結合部分をシナプスと呼ぶのはなんとなく聞いたことがあるかも。

 

ミクログリアは、まるで盆栽の手入れのように、いらない神経接合部分を食べてお掃除することで、必要な神経接合を残して正常な神経回路を作っているということがわかっています。だって、掃除せず脳が散らかったらやばいですよね。

 

これ、発生過程の脳の成熟だけじゃなくて、アルツハイマーやハンチントン病など、成人以降の様々な脳神経障害にも関わっているという仮説が唱えられているんです。

 

 

Beth Stevensという人が、この研究における大御所です。(まだ若そうだけど)

遠くから見ると歌舞伎町の伝説ローランドみたいな髪型してます。いつも学会に呼ばれたりで飛び回っているので授業とかイベントの参加をキャンセルすることが多く、「Bethは本当に存在するのか?」なんて冗談が飛び交うほどですが、毎週水曜日の免疫学セミナー。彼女はちゃんと現れました。ていうか僕の同期が彼女の研究室にいます。

 

 

セミナーで話す内容はだいたいいつも同じです。(まあそりゃ自分の研究分野話すわけですからそうですよね)YouTube等でもいつぞやの講演はアップロードされているので、気になる人はどうぞ。

とにかく、「補体と呼ばれる免疫学の中でもよくわからんしあまり誰も好きじゃない部分のタンパク質が不要な神経細胞接合部をマーキングして、ミクログリアにゴミだと教えてお掃除してもらう」ことを見つけたすごい人です。

 

今回のセミナーの終盤では(ぶっちゃけ疲れて寝ちゃいましたが笑)、こちらの論文について紹介していました*1。ちなみにbioRxivとは最近出てきた、査読がないオンライン科学誌みたいなプラットフォーム。結構レベル高いものも多いです。

 

一言で言うと、ミクログリアって一口に言ってもいろんなタイプがいるんだよっていうのを可視化した論文です。昔からM1とM2という二大分類がなされてきたこの細胞だけど、もっと複雑な分類があるでしょってこと。

 

上記のシナプス駆除のみならず、様々な役割を脳内の様々な場所、様々な時期に行うはたらく細胞、ミクログリア。それぞれ、違う見た目 (遺伝子発現的な意味で) をしてるんじゃないの?ってところからスタートして、じゃあ実際に見てみようかっていって、およそ76,000のマウス脳由来ミクログリアのRNA発現解析を行ったもの。

 

胎児からお年寄りまで、合計41匹のマウスから脳をとってきて解析だとか。お年寄りは生後540日とかなので、動物実験は時間がかかって大変ですね(他人事)。

(むかし製薬会社で研究員をやっていた時に、少しだけラット胎児の脳から細胞を単離していましたが、ああいう細かい作業は気が狂いそうになります。自分、不器用なんで)

 

セミナーの最中にも言ってましたが、脳から細胞をとってくる過程で活性化してしまわないように全部4度で実験を行ったことをプッシュしています。もちろん室温での実験中に活性化してしまうのはわかるし温度を冷やせばそういうのは防げるかもだけど、そもそも冷やすことで活性化してしまうのもあるんじゃないの、って素人目には思えます。まあいろいろ検討してこれに辿り着いたんだと思います。これに携わっていた同期も大変そうでした。

 

結果としてミクログリアには、遺伝子発現プロファイルから9種の特徴的なパターンがあることが分かりました。(その中でもクラスター2と7はa-cの3つにさらに細かく分かれています。)

 

それで、この論文では基本的にそれぞれのクラスターについて特徴的な遺伝子とともにもう一歩踏み込んだ解析をした似たような形のデータがずらっと並んでいます。

 

一番ミクログリアの状態の多様性が大きいのは胎児。お年寄りではCcl4というケモカイン遺伝子の発現が高いクラスター8という状態が多くなります。生後5日目までは増え、その後は減っていくこのタイプ。老化とともにまた赤ちゃんに戻るんですかね。

それと、リゾレシチンという脱髄誘発剤を注射したマウスではクラスター10のミクログリアがいっぱい。Interferon alpha-inducible protein 27 like protein 2A (Ifi27l2a) といういかにも自然免疫っぽい名前の遺伝子の発現が特徴的な集団です。

 

それから単球やマクロファージに一番近いクラスター6番。こいつらはどうやらMs4a7という遺伝子が高いです。実は卵黄嚢由来の脳内マクロファージはミクログリアだけではなく、髄膜など脳の境界線領域あたりには似て非なる別の種類のマクロファージがいるようです。そしてこのMs4a7などが、その差を説明するんじゃないかという考察がなされています。同時にこれらのミクログリアではこのマクロファージと比べてLyve1等の遺伝子発現が低いので、もしかしたら境界線を突破するときにこれらの発現を抑えるのかも、とも。

 

それから脳神経軸索周辺のミエリン髄鞘をところどころ食べることが高速な神経伝達を作るのに大切な生後4-5日目。この辺りで特徴的に見られるクラスター4は、Spp1 (osteopontin) という遺伝子の発現が盛んなグループです。また予想通り、リソソーム (細胞内の消化器官みたいなもの) 関連遺伝子の発現が高く、「こいつらは食べ盛りなんだなぁ」と再確認できた、ということです。神経軸索周辺にこういったクラスターが多くいるという局在もまた、その意義を裏付けていることでしょう。

 

豊富な細胞増殖関連遺伝子の発現が特徴的なクラスター3の中でも、Mif陽性Fabp5陽性ミクログリアは、主に胎児の脳に多く見られ、生後はほぼ見受けられません。今までわかっていなかったミクログリアの増殖元となっている細胞群なのかも、とのこと。

 

もう基礎知識がなさすぎて、わけわからんくなってます。笑

 

あとは一般受けしそうな内容としてはジェンダー差。よく男性脳とか女性脳とか言いますが、ことマウス脳内のミクログリアに関してはクラスター分布はほぼ同じだったようです。脳の病気のリスクには性差がありそうですが、メカニズム等に差があったとしてもミクログリアそのものの差に起因するものじゃなさそうですね (あくまでヒトがマウスと一緒だったら) 。

 

そして老化や病気について。

お年を召すに連れ、クラスター分布の変化が見受けられるのと同時に、各クラスター内でも炎症関連遺伝子の発現が増えてくるそう。(だからどんどんクラスターが細分化されていくのか。。。めんど。)これは非常に受け入れやすい結果ですよね。年を重ねるにつれ脳に限らず細胞内では特にDNA修復関連のダメージが蓄積されていきますし、実際に細胞外に飛び出しちゃったDNAに反応して発現が誘起されるインターフェロン刺激遺伝子 (Interferon-stimulated gene: ISG) の発現もクラスター4では増えています。

 

病気に関しては本実験で用いられた脱髄モデルから。脱髄とは、神経細胞の軸索を取り巻くミエリン髄鞘という絶縁体みたいなものが壊されてしまい、神経伝達が極端に遅くなってしまうこと。多発性硬化症 (multiple sclerosis: MS) などはこの脱髄が特徴的な病気です。白質のミクログリアを見てみると大きく2つのクラスターに分けられるそうで、レゾリシチン注射マウスではクラスター2が増える。中でもクラスター2には幾つかのサブクラスターがあって、、、、。とにかくこのモデルにて増えるクラスター内で発現が上昇するCcl4Cxcl10といったケモカイン遺伝子。特にCcl4に関しては、最後のデータで多発性硬化症患者の脳内でのCcl4発現ミクログリアの検出、そしてそれが白質内の特定のエリアに確認されることを明らかにしました。

ただMS患者内でCcl4の発現が上昇することは以前からわかっていたことですし、直接今回のクラスター解析によってわかったこと、という感じはあまりしないです。

が、逆に今回の大規模な解析結果がより信頼性の高いものとなったという解釈にはなると思います。

 

というわけで個人的には普段RNA-Seqなどの論文はあまり読んでてそこまで楽しくないんですが、大まかなコンセプトがつかみやすかった点でちょっと面白かったです。特にミクログリアのマーカーとして用いられていた遺伝子のうち幾つかは、今回の解析で全ミクログリアが発現するものではないことがわかったりして、この研究はこれからのミクログリア研究の際の礎を築いているのかもしれません。知らんけど。

 

複雑な免疫学と、これまた複雑な神経科学。二つの領域が重なる神経免疫学。

彼女はこの分野の先端を行く人物なので、多くの雑誌で総説をバンバン出しています。心理学みたいな身近な部分を入り口として、脳の仕組みには興味を持っているので、今度最新のやつを一本読んで、少しだけ詳しくなってみようと思います。

*1:

Complex cell-state changes revealed by single cell RNA sequencing of 76,149 microglia throughout the mouse lifespan and in the injured brain
Timothy R HammondConnor DufortLasse Dissing-OlesenStefanie GieraAdamYoungAlec WysokerAlec J WalkerMichael SegelJames NemeshArpiar SaundersEvan MacoskoRobin JM FranklinXianhua PiaoSteve McCarrollBeth Stevens