Mosalogy

会社辞めてハーバードの大学院に来ちゃった感じ

腸管上皮におけるTLRの発現分布 (Immunity. Sep 18, 2018)

どうも、mosaです。

基本的には自分のために書いているブログなので、留学の日記以外にも、読んだ論文や聞いたセミナーについて自分なりに勉強して書いてみる、ということもしようかなと思っています。

 

なので、留学関連についている途中ですが、閑話休題。今日は自分への備忘録として。

 

内容や解釈が間違っている可能性もありますが、責任はとりません!

あくまで自分の勉強用ですので、あまり信用しすぎないようにお願いいたします。

(コメント欄は閉鎖しているので、間違いを発見した場合は「こいつ本当にハーバードかよ。マジで馬鹿じゃん」くらいに鼻で笑うかして温かく見守ってください。)

 

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ヨーグルトなどの発酵食品の宣伝に始まり、最近の健康番組に触れた方にとって、「腸内細菌」というのは馴染みがある単語かもしれません。

 

細菌と聞くと悪者に思えてしまうけれど、人間の体内には常在細菌と呼ばれる細菌叢 (細菌の集団) が存在します。体内に存在する細菌の総数はヒトの細胞の総数と比べて少なくありません。*1腸内細菌が我々の正常な免疫や精神状態などを調節しているということは、多かれ少なかれ科学者の間では共通認識であるように思います。

 

 

「でも、体は外から侵入してきた菌やウイルスに対して免疫反応をおこすのに、どうして腸内細菌に対しては免疫反応をおこさないの?」

 

実は、通常は無害である腸内細菌に対しても腸の上皮細胞や免疫細胞はある程度の応答をしています。

ただ、あくまで程よいレベルの免疫反応であって、決してこれらの細菌に対して攻撃的になったりはしません。

 

ーー程よいレベル??

腸内では特に、様々なメカニズムを介して我々の免疫システムが活性化されると同時に抑制もされています。腸内細菌がいるだけで常に血便、とはならないのはこれが理由です。このメカニズムには、

  • 腸内細菌の代謝産物が免疫細胞の働きを抑えて、自分を攻撃しないようにする
  • 腸内上皮が腸内細菌を感知して粘膜バリアを作ることで、腸内細菌が体内に侵入しないようにする

などがあります。こういった調節が破綻してしまうと、炎症性腸疾患などの病気に繋がってしまうわけです。

 

今回は、この粘膜バリアを作る免疫システムに大事なToll-like receptors (TLRs) のおはなし。

 

数多くの分子がこのバリア形成に貢献していることがわかっていますが、Toll-like receptor (TLR:トル様受容体) というパターン認識受容体*2もその一つです。

 

「自然免疫*3の根幹を担うTLRが腸管において直接的に腸内細菌の存在を認識することで、腸管バリア形成に一役買っているらしい」

 

遺伝子改変技術によってTLRをマウスから無くしてみたり、といった過去の実験から、研究者たちはこういった共通認識を持っています。

 

ーーでも、腸のどの部分にあるの?

というのも、腸管上皮は実は複数の種類の細胞の集まりで、それぞれの細胞が異なる役割を果たしています。抗菌ペプチドを産生する細胞もあれば、粘液を分泌する細胞もある。TLRはいったいどのような分布で腸内に存在しているのでしょうか。

 

この問題に答えようとしてきた研究者は過去にも複数います。

これまでは、特定の細胞種にTLRをいっぱい発現*4させてみて免疫がどうなるか、だったり腸管を摘出して細胞種ごとに分けてみてTLRの発現を測ってみたり、といった手法が取られてきました。

 

ただ、例えば腸管から細胞を種類ごとに分けようとしてもどうしても他の細胞種が混じってしまいますし、こういった実験によって示された結果が本当に体内の状態を反映しているのか、と疑問に思っていた研究者も少なくないわけです。

 

 

ーーじゃあ直接的に腸内を見ちゃえばいいんじゃないの?

こう思ったのがUC BerkeleyのGreg Bartonのグループです。(UCBを受験した際には僕も彼と面接をしました。)

どうやって、っていうのが鍵になりますよね。

彼の研究室では、近年目まぐるしく発展している遺伝子改変技術を利用し、細胞内のTLRをコードするDNAにGFPやYFPと呼ばれる蛍光タンパク質のDNAを連結し、TLRを光らせることにしました。光るTLRを発現するようなベクター*5を外から投入するのではなく、内在性の遺伝子を直接改変することで、人工的な発現分布になってしまうのを防いだのがポイントです。

 

結果は意外かつ興味深いものでした。

まず、小腸と大腸でTLRの発現分布が異なるということ。そして、小腸のcrypt (陰窩; ギザギザな腸のくぼんだ部分) に存在するPaneth細胞 (パネート細胞; 主に抗菌ペプチドを産生する) にはTLRファミリーのうちTLR5*6しか存在しないということ。それから、TLR5が腸管上皮細胞の両側 (内腔に面した部分と外腔に面した部分) の細胞膜に発現しているというのも、過去の発表とは異なる新知見かと思います。

 

論文内では他にも小腸や大腸、paneth様のオルガノイド*7を用いてこの発現分布の正当性を確かめたり、またそれぞれのTLRの基質を与えてみて各オルガノイドでどのような反応が起こるかを見ています。ある程度予想のつく炎症性伝達物質の産生も見られれば、顕著な酸化ストレス関連分子の増加が見られたりと、この実験系から得られる新たな知見も多そうです。

 

著者らは一切本文で触れていませんが、オルガノイドのデータをみるとflagellinに応答して、とある興味深い遺伝子発現変動が見受けられます。

(おそらくないでしょうが自分の研究テーマにするかもしれないので、ここでは書きません。まあ、ぶっちゃけBartonラボではもう着目して研究が水面下で進んでるんだとは思いますが)

 

 

 

今回の論文のセールスポイントは遺伝子改変技術やオルガノイドという比較的新しい技術を駆使して、小腸および大腸の自然免疫受容体分布が均一ではないことを示したこと。全く新しい概念や分子を発見したというよりは「従来の認識が完全な正解ではなさそうだ」という提唱をしたというところが、NatureScienceではなくImmunityResourceに採択された理由なのかなぁなんて勝手に感じています。

 

こういった認識がスタンダードになっていくのか、そして、TLRの発現分布が均一ではないのはなぜか、というところが今後の議題でしょうか。

例えばTLR5の小腸上皮細胞における発現が見られない理由として、生後の発達の過程で発現が減少していることが確認されています。個人的には同時にPaneth細胞でのTLR5発現は反対に増加しているように見えますし、逆に他のTLRファミリーはなぜPaneth細胞で発現が見られないのか、という点にも興味があります。

 

ーーで、腸管のバリアの話はどこいった?

今回発表された腸管上皮におけるTLRの発現分布は腸管バリアにおけるそれぞれの役割をどのように説明するのでしょうか。例えば抗菌ペプチドを産生するPaneth細胞はTLR5を中心に発現するので、この基質であるflagellinに応答して抗菌ペプチドを産生するように思えます。しかし非常に興味深いことに、Paneth細胞はflagellinによっては抗菌ペプチドの一つであるRegIIIを産生せず、むしろRegIIIは周囲の細胞が産生した炎症性情報物質であるIL-22やIFN-γによって誘導されます。つまり、Paneth細胞が抗菌ペプチドを産生するためには単純に細菌を認識するだけではダメで、周りの免疫細胞に働きかけてその助けをもらうことまでが必要であるということです。じゃあ余計に、なんで他のTLRは存在しないんだろう、と素人目には思えてしまいます。

 

今回の論文をきっかけに腸管上皮について少しだけ勉強することができました。

腸の細胞にはTLR以外にもその他の自然免疫担当分子群の発現も認められていますので、それらの役割についても今後研究がなされるでしょうし、自分も文献を読んでみたいと思います。

 

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今回の論文

April E. Price, Kiarash Shamardani, Kyler A. Lugo, Jacques Deguine, Allison W. Roberts, Bettina L. Lee, Gregory M. Barton,
A Map of Toll-like Receptor Expression in the Intestinal Epithelium Reveals Distinct Spatial, Cell Type-Specific, and Temporal Patterns,
Immunity, 2018, ISSN 1074-7613,
https://doi.org/10.1016/j.immuni.2018.07.016.
(http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1074761318303364)
Keywords: TLR; intestinal epithelial cells; Paneth cells; innate immunity; intestinal homeostasis

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:かつては細菌総数の方が遥かに多いと言われていましたが、近年の研究ではほぼ同数という結果も出ています。いずれにせよ、我々の体内にはかなりの数の細菌がいるということです。

*2:細菌やウイルスが共通して持つモチーフを認識する受容体。複数の種類があって、それぞれ細菌の細胞壁成分やウイルス特有のDNAなどを認識します。単球由来の免疫細胞に主に存在するので、免疫学の教科書を開いた人からすると、「むしろ腸管上皮にも存在するんだ」といった感じでしょうか

*3:免疫システムのうち、初期に引き起こされる反応。パターン認識受容体がざっくりと細菌やウイルスの存在を感知することで、マクロファージや樹状細胞がその病原体を食べてしまったり、より巧妙な獲得免疫と呼ばれる反応を引き起こします。

*4:DNAに存在する遺伝子情報から、細胞がタンパク質を合成すること

*5:輪っか上の人工的なDNA。これを外部から人工的に細胞に取り込ませると、細胞はベクターのコードするタンパク質を発現します。

*6:flagellin (フラジェリン; 細菌の鞭毛を構成するタンパク質の一つ)を認識するパターン受容体

*7:3次元的に試験管内で作られた臓器