Mosalogy

会社辞めてハーバードの大学院に来ちゃった感じ

AireのCARDが有する二つの顔 (Nature Communications, 4/2/2020)

「AireにCARDがあるんです」

イタリアンでの夕食時に僕の隣に座っていたSun Hurがそう言い放ったのは、もう3年前。

 

ふと気がつくと、4月2日付で彼女の研究室から論文が出ていました。

Dual functions of Aire CARD multimerization in the transcriptional regulation of T cell tolerance (Huoh et al.)

「T細胞の免疫寛容の転写制御におけるAireのCARDの多量体形成の二つの役割」と言ったところだろうか。

 

T細胞が胸腺で分化する際、自分自身に由来するペプチドに強い親和性を示すものはアポトーシスを誘導する。リンパ節や末梢においては、自分自身の成分と反応するT細胞が存在してしまうと困るからだ。

この選別に重要な働きを有するのが胸腺上皮細胞 (medullar thymic epithelial cells; mTEC)。この細胞内にあるautoimmune regulator (Aire)という転写因子は、自己の各組織に由来するペプチドを発現してMHC上に提示するうえで必須の役割を持つ。その名の通り、この転写因子に異変を持つ場合、自己免疫疾患を患うこととなる。自己反応性のT細胞が野放しになってしまうからだ。

 

一方、CARDというのはタンパク質のドメインのことで、正式にはcaspase recruiting domainという名の短縮形である。ただ、一口にCARDといっても全てのタンパク質のCARDが同じ配列をしているというわけではなく、アポトーシスの中核を担うcaspaseとの相互作用が認められていないものもある。

主に自然免疫のシグナル伝達を担う分子群に多くみられるドメインで、それらに共通した特徴として、他のタンパク質のCARDを巻き込みながら大きな複合体を形成する、というのがある。これらの複合体は、シグナル伝達の足場として重要な役割を果たしている、すなわち下流の反応が円滑に進みやすくなる。無重力状態で料理や裁縫などの作業をすることをイメージして欲しい。何事も地に足がついていた方が、効率よく行えるだろう。

 

さて冒頭の発言に戻り、Sun Hurが言っていたのは、「このAireという獲得免疫において重要な役割を果たす転写因子がCARDという自然免疫のプラットフォーム形成に重要なドメインを持っている」ということだ。

そのテーブルにいた他の教授陣が「まじか」などと言っていたので、てっきり僕はそれ自体が彼女のグループが発見した新事実なのかと思ったが、本論文を読んでみると、どうやらそれ自体は既報だったようだと気づく。

 

RIG-IやMAVSといったCARDを有する分子が活躍する抗RNA自然免疫経路を中心に構造生物学的な研究を行う彼女らのグループだが、CARDを有する分子としてAireに注目し、それまでの実験的なアプローチをこの分子にも投影した研究だ。ちなみに、彼女は僕が正式に2年生を終えるうえで退学か進学かを決める試験prequalifying exam (PQE)で審査員をしてくれた一人である。あの試験はもう二度としたくない。

 

さて、ほぼ内容に触れずにここまで書いてしまったが、あまりの眠気と頭痛に耐えきれずに寝ていたら気がつくと夕方の5時である。ちなみに書き始めたのは午前だ。

 

自己嫌悪から逃げるように簡単に内容に触れておくと、

AireのCARDはフィラメント様の複合体 (凝集体) 形成を担い、クロマチンとの相互作用に必須であるが、一方でCARD単体の複合体はpromyelocytic leukemia protein (PML) bodiesという小体に局在してしまう。全長のAireそのものはPMLとの共局在は見られないが、CARD内および外のアミノ酸変異によりPMLとの局在が見られるような変異体は、Aire依存的な転写を満足に誘導できなくなる。PHD1というドメインにおける点変異もそのような変異の一つで、この部分に変異を持ったヒトで自己免疫疾患が確認されるのも頷ける、といった内容だ。

 

アプローチとしてCARDの代わりにFKBPを連結させてみたり、類似したCARDを有するSp100ファミリーのCARDに置き換えてみたり、といった手法は古き良き分子生物学を久々に見た気がして面白かった。そして、Sp110が転写活性を下げたという結果から、Sp110に特徴的なPML局在に目をつけ以降の研究を進めた、というようなストーリー感も気持ちが良い部分である。

しかし、PML局在を示すAire変異体ではSUMO化やヌクレアーゼ感受性が高まる、ということを示すデータは、単に変異体の発現量が野生型よりも高いことに依存しているように見えたり、データについて完全に満足できないところもある。ただ、論理の整合性で考えればおそらく筆者の主張が大きく外れているとは思えないが。

 

 

ということで、タイトルにあるdual functionというのは、すなわち複合体形成を担う、かつ同時に、PMLと相互作用しない複合体形成を担うというCARDの役割についてであると思われる。PML exclusionがどれほど「CARDそのものの機能」なのかは疑問であるが、AireのCARDやその転写への必要性、複合体 (凝集体) 形成、といった断片的な既存の知識を繋ぎ合わせる研究として面白い結果であるとは感じる。

デッドオアアライブ

新型コロナウイルスSARS-CoV2が引き起こしたCOVID-19。

その影響を受けて、アメリカでは外での「必須のビジネス」以外は全て閉鎖し、国民は原則自宅にいる事を強いられている。

 

必須のビジネス、というのは水道などのユーティリティやインターネット、郵便局や銀行などの生活に関わる業務や、スーパーマーケットや薬局といった日用品や食料品、それから飲食店のテイクアウトといった食事を指す。ビジネスを仕事以外に事柄、と捉えるならば、ジョギングや散歩をすることは健康のため必須、という意味で今のところ可能である。

 

その他の店はどこも開いてない。映画館やジムはもちろん、家具屋やクリーニング屋、普通に想像できるお店というお店は、どこも開いていない。

 

当たり前だが、学校なんて行ける訳が無い。

 

自宅で過ごすよう言われても、アパートのジムや自習室も開いていない。

部屋を出る時は、ロビーのコーヒーマシンでコーヒーを淹れる時だけ。

 

僕らはこういった生活を過ごしている。

その上で、ニュースを開けば今日の感染者は何人だ、ニューヨークが非常に危険な状態にある、などと常に流れてくる。

 

 

わかりますか。

仕事ができないんです。人と会えないんです。

他人との距離は6フィート、すなわち180cm程度とるように言われているんです。

それなのに外の世界で起こっている惨劇を、ひたすらに刷り込まれるんです。

 

 

先日まではスーパーのレジに6フィートの間隔線が引かれていただけだったのに、今日久しぶりに買い出しに家をでたら、入り口に6フィート間隔で人が並んでいたんです。

そう、入場制限です。一度にたくさんの人が店内にいると、感染のリスクが高まるから。

 

 

スーパーに入ればウェットティッシュでカゴの持ち手を拭くように指示されるし、もちろん人との距離を取らなければいけないから、ゆったりとどのアボカドがいいかを選んでなんていられない。

 

トイレットペーパーもキッチンペーパーもティッシュペーパーもない。

石鹸やハンドサニタイザーだって、もちろんない。

 

 

医療関係者や感染者に正規のマスクが行き渡るよう、国民は布マスクの着用を推奨される。

もちろん、「マスクがソーシャルディスタンシングの代替にはなりません、引き続き家にいてください」の注意付きで。

 

 

こういった全てのルールを、国民が守っているんです。

アメリカですよ、普段ルールなんて守らない人だってたくさんいるこの国で、みんなが事の重大さを理解して行動しているんです。

数ヶ月前まではこの街でマスクしている人を見たことがなかった。それが今では、顔を隠している人が大半です。スーパーで買い物する際に使い捨ての手袋を装着し、買い物後に捨てる、そんな人もちらほらいます。

 

 

アメリカがこうだから、他の国もそうするべきだ。

そんな単純な論調を繰り広げるつもりは毛頭ない。

 

でもね、僕のいるマサチューセッツ州って、比較的報告件数も少ない方だし、ぶっちゃけまあ大丈夫かなって思ってたんですよ。

それが、こんな異様な街になっているんです。

 

増える失業者。精神的におかしくなる人も多いんでしょう、外に出れば少しおかしい感じの人が喧嘩している場面を何度か見かけます。

そりゃ変わった人なんて以前からいくらでも見かけますけどね、でもね、明らかに全体的にみんながイライラしてるんです。不安な表情を浮かべているんです。

 

誰がウイルスを持っているかわからない、そんな空気感を漂わせ、絶対に他人に近づかない。

そういう街になっているんです。

 

 

特にこの記事で何が言いたいわけでもありません。誰に伝えたいことがあるわけでもありません。

ただなんとなく、久しぶりに行ったスーパーから帰ってきて、勝手に指がキーボードを叩いているだけです。

 

 

東京の自粛要請。自粛と要請は本来、表現として矛盾している。

必要なのがどちらか、よく考えて欲しい。

 

自粛なんていって停止するビジネスがどこにある。

なるべく人の集まる場所には行かないように、なんていって飲み会がなくなると思うか。

 

 

ルールに従うことができる人たちも、ルールがなければ好き放題にやるよ。

「日本は大丈夫、感染者が少ないから。」

そういってそもそもの検査数が少ないことを棚に上げ、まるで自分だけは例外だなんて信じて行動する人が後を絶たないよ。

 

明確なルールがないってそういうこと。

在日アメリカ大使館が、国民に対してすぐに帰国するよう勧告してるんです。

「日本は検査数が少ない、これから大変になる」っていって。

 

 

オリンピック延期になっちゃったね、残念。じゃないんだよ

志村けん亡くなっちゃった、好きだったのに残念。じゃないんだよ

 

一人一人、例外なんてなくて大切な命なの。

「自分は大丈夫」そんな考えだけで、周りを巻き込まないで。周りは大丈夫じゃないの。

 

倍々ゲームってわかる?

1の倍は2、2の倍は4、そうやって倍になって増えていく。

1から始めて10回2倍したら数えたら幾つになる?1024だよ。

 

実際は2倍なんてもんじゃないよ。どんどん増えていくの。

今日大丈夫だから明日も大丈夫なんて、文字通り0じゃなきゃ言えないの。

 

 

「危機的状況になってからでは遅い。」

誰もがそんなことわかっているのに、

不思議なもので、

人間ってのは、

 

 

 

 

 

危機的状況になってみないとわからない。

組織常在性記憶T細胞の挙動や代謝の制御 (Science Immunology, April 3 2020)

免疫学を学習する上で一番厄介とされるT細胞やB細胞を含むリンパ球が司る獲得免疫。

一言でTあるいはBリンパ球といっても、いろいろな種類の細胞がいるからだ。

 

ワクチンの仕組み等で耳にしたこともある人は多いと思うが、免疫というのはざっくり言えば外敵の記憶。「ワクチンを打つと体の中に抗体が作られる」というのは、もう少しだけ細かく言えばその病原体に対する抗体を作れるB細胞(=記憶B細胞; memory B cells)が増え残る、ということである。

では獲得免疫における記憶はそれだけか、というとそういうわけではない。B細胞とともに獲得免疫を担うT細胞の場合でも、最初の病原体感染が治った頃にはそいつを認識できるT細胞が残る (正確には、抗原提示細胞による提示を認識できる、ということだが、細かい事はおいておく)。

こういったT細胞を記憶T細胞 (memory T cells)とよび、非リンパ組織にそのまま循環せずに住み着く常在性記憶T細胞 (tissue-resident memory T cells; TRM)と、リンパ組織を監視するセントラルメモリーT細胞 (central memory T cells; TCM)や末梢の非リンパ組織を循環するエフェクターメモリーT細胞 (effector memory T cells; TEM)からなる。TRMはその組織を感染ルートとする病原体に対して、同じく組織常在性のマクロファージなどと強調して対抗する細胞、すなわち門に張り巡らされた軍隊の一部とでも思っておけばいいだろう。

 

今週Science Immunologyに掲載された二本の論文は、このTRMの制御についての研究結果である。

 

Organ-specific isoform selection of fatty acid-binding proteins in tissue-resident lymphocytes (Frizzell et al.)

ご想像の通り、このTRMには普通の末梢循環系のT細胞よりも長生きしてくれないと困る。

せっかく敵の顔を知っているやつを門の付近に待機させたのだ、できれば長生きしてほしい。

 

実際にTRMの寿命は比較的長く、過去の研究では、皮膚に常在するCD8陽性TRMが脂肪酸結合タンパク質群 (fatty acid binding protein; FABP)のメンバーであるFABP4やFABP5を介して脂肪酸を細胞内に取り込むことで、その代謝によって長生きしているということがわかっている。

 

では、他の組織ではどうなのだろうか。他のFABPの発現は?

 

TRMを主な研究対象としているメルボルン大学のLaura Mackay研究室は、「組織常在性記憶T細胞は脂肪酸結合タンパク質の組織特異的なアイソフォームを発現する」という題の通りの結果を発表した。すなわち、各組織に常在するTRMはそれぞれ違ったFABPを発現している、ということだ。

 

LCMVというウイルスを、P14とよばれるLCMVの糖タンパク質を認識するCD8陽性T細胞を有するマウスの腹腔内に注射し、30日後に皮膚、小腸上皮および肝臓のTRMにおけるFABPの発現を解析した (細かい事を言えば、皮膚のTRMの量を増やすために、ウイルス感染後にDNFB感作という方法で皮膚に免疫を起こしている)。

過去の報告通りFABP4および5の発現が認められる皮膚のTRMに対し、小腸のTRMはFABP1, 2および6の発現が、肝臓のTRMではFABP1の発現が多かった。なお、脾臓におけるナイーブT細胞や上述のTCMやTEMにおいては、FABP1~9のいずれの発現も認められなかった。

 

このデータがこの論文の主張の大部分であり、以降ではその発現の動態や必要性、他の免疫細胞との発現の比較を行なっているのだが、面白いのはさらに終盤の部分で、これらの発現がリプログラミング可能である、というところだ。

すなわち、例えばP14由来の肝臓のTRMをナイーブのマウスに静脈注射し、LCMV+DNFBにより皮膚へと誘導すると、これらはFABP1ではなくFABP4を発現するのである。In vitroの系で組織抽出細胞の培養上清がT細胞におけるこれらFABPの発現を誘導することから、TRMは移動した先の組織に応じて柔軟にFABPの発現を誘導し、その組織上にある脂肪酸を積極的に取り込みにいくことで代謝プログラムの変更および長寿性の獲得を実現しているのだろう。

 

不勉強ゆえTRMの背景知識が皆無の僕ですら、面白いと感じた。

柔軟性というスキルが、終身雇用制度の崩壊に伴い職場を転々とすることが今後求められていくであろう日本において重要である、そんな提言へのアナロジーを垣間見たような気さえする。

 

 

Salivary gland macrophage and tissue-resident CD8+T cells cooperate for homeostatic organ surveillance (Stolp et al.)

スイスのフリブール大学のJens Steinの研究室から発表された論文は、TRMの動態制御についての内容で、その題は「唾液腺のマクロファージと常在性CD8陽性T細胞は協調して組織における免疫監視を行なっている」というものだ。

題名だけでは少々わかりづらいが、顎下腺という複雑に入り組んだ構造を持つ唾液腺にTRMがどうやって常在するのだろうか、という細胞動態に焦点を当てた研究で、生体内のライブイメージングを駆使した視覚に訴える発表内容である。

例えば表皮におけるCD8陽性のTRMは、予想通り他の免疫細胞と同じくケモカインとよばれる遊走因子に引き寄せられる形でその場に集積する。ヘルペスウイルスの感染経路としても知られる顎下唾液腺にもが存在するが、この場合はどうなのだろうか。というのも、皮膚とは違って顎下腺はその三次元構造がより複雑だ(らしい)からだ。

 

彼らはGFP陽性のOT-IトランスジェニックマウスにLCMV-OVAを感染させ、30日後の顎下腺にGFP陽性のTRMを確認した。20にものぼる動画ファイルの大半は、このTRMおよび対照として末梢リンパ節の記憶T細胞(TPLN-M)の挙動を録画したものであり、大きく分けて、その発見は

  • 顎下腺のTRMは常在性マクロファージに沿って動く、またその形態はTPLN-Mと比べるといびつである場合が多い。
  • このTRMは常在性マクロファージを欠損させるとその動きが少し遅くなり、また上皮からの出入りが著しく抑制される。
  • しかし、既知のインテグリンやその他接着分子、ケモカインを阻害しても顎下腺のTRMの動きは影響を受けず、物理的な要因が大きいかと思われる。
  • 実際、顎下腺の常在性マクロファージは周囲の上皮細胞と特定の結合を継続せず、くっついて離れてを繰り返す中で突起を間にねじ込んで隙間を作ったり、この唾液腺の物理的環境変化を担っていることが、super-resolution shadow imaging microscopy (SUSHI)という細胞間隙の検出法を適用することでわかった。
  • 寒天内の細胞遊走アッセイでは、ケモカインやインテグリンの働きを阻害した状態でも、ヒト結成アルブミン(HSA)コートした寒天内でTRMの動きが認められた。一方、ナイーブT細胞やTPLN-Mはこの条件ではほとんど動かない。この動きがEDTAというキレート剤で顕著に抑制されることから、二価の陽イオンを介した何らかの相互作用が絡んでいると予想される。

といったところだろうか。

というわけでこの論文はTPLN-Mと比較した際の顎下腺TRMの動態の特徴についての報告である。マクロファージを必要とした動態および細胞自律的な動きが、どの程度他の組織のTRMについて一般化できるものなのだろうか、という疑問が導入部分から湧き上がった。

 

これを読んで意味がわからないと思っても大丈夫、正直書いている本人もよくわかっていない。わかりやすい文が書けない場合は、大抵理解していないということなのだ。細胞の遊走に関しては昔の試験の点数も著しく低かった気がする。どうも全体感を持って免疫学を捉えるのが苦手らしい。致命的。こういうのっておそらく実際に自分で実験してみたらすうっと理解できるようになるんだろうなと思い、こういう分野の研究室でローテーションしておけばよかった、などと後悔することとなった。

 

時間があるときに、こういった分野の基礎から勉強していきたい。

すぐYouTubeやNetflixに走ってしまうのが悪い週間。きっとそういった動画配信コンテンツは人間を惹きつけるケモカインでも画面から出しているんだろう。

TLR4シグナルを構成するノンコーディングRNAの同定 (PNAS, 4/2/2020)

DNAやタンパク質という言葉に耳馴染みがある人は多いだろう。

一方でRNAとなると、親近感を覚える人は一気に減るだろう。

おそらく、RNAと聞いてピンとくる人は、生物学を学校で勉強した人だろう。

少なくとも僕のような不真面目な人間ではない。

 

さて一般的にRNAというと、DNAの転写物でありタンパク質を翻訳するための情報源となるmRNAが思い浮かぶかと思うが、その他にも様々な種類が存在する。

その中でも、タンパク質をコードしないノンコーディングRNA (ncRNA)というものが存在する。というよりも、実はRNAの大部分をこのncRNAが占めている。

タンパク質をコードしていないならば生体にとって不必要なのか、というとそうではない。

何もRNAの役割はタンパク質の翻訳だけではなく、それ自体が様々なタンパク質やヌクレオチドと相互作用することで細胞内の様々な機能を制御することがわかってきている。

 

DNAではない、RNAこそが我々の体を司る中心なのだ、というRNAワールドの概念も広がっている。

 

さてそんなncRNAのうち200以上の塩基長を持つロングncRNA (lncRNA)のうち、マクロファージの自然免疫経路の代表格であるTLR4シグナルを構成するものを同定した論文が、4月2日付でPNASに報告された

タイトルはNoncoding RNA MaIL1 is an integral component of the TLR4-TRIF pathway。

和訳すると「ノンコーディングRNAのMaIL1はTLR4-TRIF経路に必須な構成因子である」といったところか。

 

ヒト血液由来のマクロファージのうち、TLR4の基質であるリポ多糖 (LPS)を添加して活性化させた細胞とそうでない細胞について、RNA-Seq、グリセロール密度勾配遠心、およびマススペクトロメトリーを用いてタンパク質と相互作用しているRNAを発掘した。

その結果、既知のLPS応答性のncRNA群に加え、MaIL1を含む複数のlncRNAの発現が上昇することを発見した。これらの多くは細胞分画においては核よりも細胞質に多く確認される。

 

また同様にLPS刺激をした細胞をグリセロール密度勾配遠心により22の画分に分け、それぞれについてRNA-Seqとマススペクトロメトリーを実施した。各々の画分においてどのような種類のRNAがどのようなタンパク質と相互作用しているのかを調べるのが目的だ。この実験結果でも、lncRNAの多くが細胞質のタンパク質と共在していることがわかった。これらlncRNAのうち、リボソーム画分に存在しなかったグループIに分類されるlncRNAに注目し、以降の実験を行った。(リボソームとの相互作用がない方が、これらが本当の意味でノンコーディングである可能性が高いからだ。)

 

これらのうち、ユビキチン・プロテアソーム系および自然免疫系のタンパク質群と相互作用していそうとされるグループIaにいたのが、先ほどのMaIL1だ。MaIL1は1543ヌクレオチドの長さを持つlncRNAで、LPS以外の自然免疫を引き起こす基質にも応答して発現が上昇することが確認された。LPSの受容体であるTLR4は、その下流でMyD88およびTRIFを介したシグナル伝達および遺伝子発現の調節を行うが、転写因子阻害剤を用いた実験から、MyD88を介したシグナルがMaIL1の発現上昇を担うことがわかった。

 

さて、マクロファージにおけるMaIL1の相互作用因子をより詳細に解析するため、ビオチン標識したMaIL1を用いて、UVクロスリンク後にマススペクトロメトリーを実施した。ランダムなRNA配列を用いて同様の実験を行なった場合と比較したところ、MaIL1の相互作用因子として、TLR4-TRIF経路の構成因子でありユビキチンアダプターとして機能するオプチニューリン (optineurin; OPTN)が同定された。

 

OPTNはTBK1と複合体を形成するとともにユビキチン鎖を身にまとうことで、このOPTN-TBK1凝集体によるIRF3のリン酸化の足場として機能する。このシグナルステップにおけるMaIL1の役割を解析する目的で、RNAiやCRISPR/Cas9によりMaIL1の発現を抑えたところ、LPS刺激に応答したIRF3のリン酸化が抑制され、またOPTNのタンパク質量が減少することがわかった。OPTNの遺伝子発現は影響を受けなかったことから、タンパク質の安定性が低下したことが示唆される。OPTNはプロテアソームによって分解される。興味深いことに、通常の細胞においてはOPTNはプロテアソーム阻害剤によってそのタンパク質量が増加するが、MaIL1欠損細胞においてはプロテアソーム阻害剤はOPTNのタンパク質量を増加させなかった (というよりも、むしろ低下させているようにも見える)。その他にも、MaIL1がOPTNの凝集体を形成することが明らかとなった。これらの結果から、MaIL1による凝集体形成がプロテアソームからOPTNを守るために必須である、という見方もできるだろう。

 

そして最後に、このMaIL1がIRF3の下流で誘導されるI型IFNと呼ばれるサイトカインの産生に必要であることを示して、この論文は終了する。と書けば簡単であるが、実際にはMaIL1のsiRNAを導入した細胞を用いたRNA-Seqにより、MaIL1が担うサイトカインを網羅的に調べた結果のIFNの同定である。査読で命じられたのだろうか。いずれにせよ全体的にお金のかかった研究だと感じる。

 

総じてこの論文の言いたかった事はMaIL1の同定というよりも、広くlncRNAが自然免疫応答においてタンパク質と相互作用をしている、という点であるように感じる。というかそうであって欲しい、なんとなく。

 

ただ一番個人的に興味を持ったのはMaIL1とOPTNによる凝集体の形成。

DNAやRNAとタンパク質が相互作用した結果の「相分離 (Phase separation)」という分野が近年の生物学を賑わせている。この複合体は凝集体というよりも液滴 (liquid droplet)と呼ばれる不可逆的に形成される膜のないオルガネラであり、神経科学や免疫学の分野との関わりも少しずつ報告されてきている。

 

年明けに相分離生物学についての教科書を読んだ時、おバカな僕の脳みそではその内容はよくわからなかったが、少なくとも「細胞内の反応はほぼ全て液滴のような場で進んでいるのではないか」と感じた事は覚えている。

今回の研究によりOPTN-TBK1複合体がRNAを介していることが明らかとなった今、この「凝集体」が液滴である可能性が新たに生じたりはしないものだろうか。

今週のNatureハイライト(2020年4月2日号)

※各論文を読んだわけではなく、自分用に「あとで読む」リストを作成している感覚なので悪しからず。間違ってても知りません。

 

1. A genomic and epigenomic atlas of prostate cancer in Asian populations (Li et al.)

208人の中国人の前立腺がん患者のサンプルについて、ゲノム解析、トランスクリプトーム解析およびDNAメチル化解析を行った結果、これまで主に報告がなされてきた西洋人のデータと異なる分子群(FOXA1など)が病態関連遺伝子として浮かびあがってきた。

 

2. Fundamental bounds on the fidelity of sensory cortical coding (Rumyantsev et al.)

16ビーム2光子顕微鏡を用いてマウス一次視覚野の数百の神経を同時に観察することで、神経の相関ノイズが適切な神経回路形成を阻害していることを示した。

 

3. Centrosome anchoring regulates progenitor properties and cortical formation (Shao et al.)

放射状グリア前駆細胞において中心体が核から離れて脳室帯側の頂端膜に局在している分子機構としてCEP83を同定し、その欠損が中心体の局在不良ならびにグリアの異常増殖による皮質の肥大化を引き起こすことを発見した。

 

4. In vitro characterization of the human segmentation clock (Diaz-Cuadros et al.)

ヒトiPS細胞を基に前体節中胚葉細胞を誘導し、他のモデル動物で提唱されていた分節時計が人の発生過程でも存在することを実験的に示した。マウス同様FGF, WNT, NotchおよびYAPシグナルによって遺伝子発現振動が制御されるだけでなく、FGFは振動の位相や周期も制御するということを示した。

 

5. Coupling delay controls synchronized oscillation in the segmentation clock (Yoshioka-Kobayashi et al.)

YFPを改変することで開発した、成熟の早い蛍光タンパク質Achilleを時計遺伝子HES7に結合させてマウスに発現させることで、前体節中胚葉の細胞における時計遺伝子の振動をライブで観察した。その結果、Lfng欠損によるNotchシグナルの異常が一細胞内での振動には影響を与えず、代わりに細胞間での振動の不協を引き起こすことを発見した。

 

6. Recapitulating the human segmentation clock with pluripotent stem cells (Matsuda et al.)

ヒトiPS細胞から前体節中胚葉細胞を誘導し、ヒト中胚葉細胞でも分節時計が認められることを示した。軸骨格形成異常患者の原因遺伝子と思われる遺伝子群をCRISPR-Cas9により欠損させると分節時計遺伝子の振動に影響を与えたことから、この細胞を発生家庭の分節時計研究のヒト細胞モデルとして利用していける可能性が示唆された。

 

7. Metabolites released from apoptotic cells act as tissue messengers (Medina et al)

アポトーシスを起こす細胞から分泌される代謝物を解析した結果、Caspaseの活性化に伴いpannexin1チャネルから放出された代謝物群(AMP, GMP, クレアチン、スペルミジンおよびグリセロール3リン酸など)が周囲の細胞の遺伝子発現を変動させ、抗炎症状態、細胞修復や増殖を引き起こすことを発見した。

 

8. CRISPR screens in cancer spheroids identify 3D growth-specific vulnerabilities (Han et al.)

三次元培養した肺がんスフェロイドにおけるゲノムワイドCRISPRスクリーニングを実施し、得られた必須のがん遺伝子が二次元培養よりも正確にin vivoの腫瘍を模していることを示した上で、新たにカルボキシペプチダーゼDを肺がんの増殖を担う遺伝子として同定した。

 

9. Parental-to-embryo switch of chromosome organization in early embryogenesis (Collombet et al.)

着床前のマウス胚の染色体三次元構造解析により、受精後のクロマチン高次構造と、親のアリル特異的なヒストンメチル化に関係があることを示した。一方、その後には親の遺伝子とは無関係にトポロジカルドメインが生じる。発生初期において、三次元ゲノム構造と遺伝子発現は複雑で動的なものであることが明らかとなった。

 

10. U1 snRNP regulates chromatin retention of noncoding RNAs (Yin et al.)

lncRNAにランダムな変異を導入することにより、U1 snRNAに結合するRNAモチーフをlncRNAのクロマチン局在に重要な配列として同定した。U1 snRNPはRNAポリメラーゼIIとも相互作用することを発見し、この複合体が転写機構依存的にlnRNAをクロマチン領域へと誘導することが示唆された。

 

 

7, 8, 1, 4&5&6, 3, 10, 9, 2かな。

個人的にはぶっちゃけ7だけ読めばいいが、流石に三つ同時に報告されている分節時計を放っておくのは気が引ける、というのと、圧倒的に発生学の知識がなさすぎてやばいからちょっと基礎から読んでみるのもありかな、という所存である。

うん、すでに疲れたからたぶん読まないね。笑

今週のScienceハイライト (2020年4月2日号)

※読んでません。どちらかというと個人的な「あとで読む」リストです。

 

1. Structural basis for allosteric PARP-1 retention on DNA breaks (Zandarashvli et al.)

抗がん剤として有効であるPARP-1アロステリック阻害剤であるが、異種類の阻害剤は、PARP-1との結合様式の構造上の違いから、結果としてDNA損傷部位にPARP-1が保持されるかどうかが異なってくる。

 

2. Maintenance of neural stem cell positional identity by mixed-lineage leukemia1 (Delgado et al.)

マウス脳発達過程において、神経幹細胞の位置情報は最初はモルフォゲンによって決定されるが、その後はMIL1依存的なエピジェネティクスの記憶系によって維持される。

 

3. Endoplasmic reticulum-associated degradation regulates mitochondrial dynamics in brown adipocytes (Zhou et al.)

小胞体関連分解機構におけるSet1L-Hrd1複合体を欠損したマウスでは、脂肪組織において小胞体ーミトコンドリア間の接触がなくなりミトコンドリアが適切に分解されず、「メガミトコンドリア」が生じる。このミトコンドリア機能低下の結果、脂肪組織特異的Set1L欠損マウスは低温刺激に対して脆弱になる。

 

4. Cysteine depletion induces pancreatic tumor ferroptosis in mice (Badgley et al.)

膵臓癌の腫瘍細胞はシステインを取り込むことで脂質由来の活性酸素を除去し、フェロプトーシスという細胞死を阻害する。このシステインの取り込みを阻害、あるいはシステインを分解する薬剤により細胞内のシステイン濃度を低下させることで腫瘍細胞にフェロプトーシスを起こさせてその増殖を抑えることができた。

 

5. Facial expression of emotion states and their neuronal correlates in mice (Dolensek et al.)

様々な刺激を与えたマウスの表情を機械的に学習させて感情ごとに分類し、2光子カルシウムイメージングと組み合わせることで、感情とそれに対応して活性化する神経を特定することに成功した。

 

読んでみたい順には3, 4, 1, 5, 2かな。

胃の常在細菌と免疫系の関わり (Immunity, 4/1/2020)

※相変わらず、ちゃちゃっと流し読みした論文について、自分用に書いているだけなので、内容については間違っていても一切責任を負いません。

 

腸内細菌という言葉に聞き馴染みがある人は多いだろう。

ヨーグルト食べると健康にいい、とか言われてるあれである。

腸内には常在細菌がおり、いいバランスの細菌叢だといい感じの免疫系が確立される、というやつ。健康なマウスの腸内細菌を病気のマウスに移すと病気が治る、というのはよく実験で用いられる手法。

 

さて細菌叢はなにも腸内に限定されず、例えば肺や皮膚にもいることがわかっている。

予想通り、肺や皮膚の細菌叢も免疫細胞系の形成に重要である。

「外界に触れる粘膜組織では、こういった常在細菌によって形成される免疫系が重要な役割を果たす」などと一般化してしまってもいいかもしれない。

 

今回は、胃。

特定のピロリ菌の感染時には大幅にダメージを受けてしまう胃。

こちらも外界に触れる組織なので、常在細菌が免疫系を構築しているのではないか、という仮説のもとになされた研究が4月1日付でImmunityに掲載された。理研/横浜市立大/神奈川県立産業技術総合研究所に所属するPIのグループからの発表だ。

 

 

実験はシンプルで、胃から細胞を取り出してマーカー解析。

自然リンパ球のうち、グループ2に属するもの(ILC2s)の割合が多いことがわかる。

以降はこの胃由来のILC2を、腸管由来のILC2と比較しながら解析することとなる。

 

サイトカイン産生能およびサイトカイン応答性については腸管由来のILC2と類似しているが、特筆すべきはIL-7への応答性の違い。CD127(IL-7a受容体)の発現が多いことからも肯ける。

また、筆者らはあまり言及していないが(例によってめんどいので考察は読んでない)、腸管由来のILC2と異なりIL-6の産生が見られないのは興味深いと思った。

 

さて、IL-7によってグングン増える胃のILC2。

無菌状態で飼育されたマウスや、特定の抗生物質バンコマイシンを処理したマウスではILC2が減少している。ここにリコンビナントのマウスIL-7を投与するとILC2量が増えることから、バンコマイシン感受性の細菌の存在によるIL-7の産生がILC2を胃に張り巡らせるのに必要だとわかった。ちなみに、S24-7という菌がそれらしい。

 

実際にピロリ菌感染においてのILC2の役割を見てみよう、というのが論文後半の実験である。

大部分の実験を無菌マウスで行っており、感染2週間後に一過性のILC2の増加が見られる。

この2週間という時点では、T細胞はまだ増えておらず、B細胞はもう増えている。

ここで胃のILC2がIgA陽性の形質細胞/プラズマブラストの形成に大事なんじゃないかと考えられるが、実際に抗IL-5抗体(IL-5はILC2が多く産生するサイトカイン)を投与するとこれらは減少することから、その可能性が高いと考えられる。(T細胞はまだピロリ感染2週間後では増えていないので。)ILC2を欠損させたマウスと野生型を比較すると、ピロリ菌に対するIgA抗体が減少することも、この可能性を裏付けている。

 

さて、この無菌マウスで行われた実験を、抗生物質を投与したSPFマウスで行えば常在細菌の大切さがわかる。上の実験と同じく、バンコマイシン投与によりIgAの産生量は抑えられることから、常在細菌に対する胃粘膜での免疫反応は、主にこの抗生物質に感受性をもつ細菌に対して産生されているということがわかる。ちなみに先ほど述べたS24-7以外にも、ピロリ菌もその一つだ。

 

というわけで、胃粘膜での細菌叢と免疫系についてという(ほぼ)新領域についての研究である。腸管免疫が身体のあらゆる部分の恒常性および病態に関わっていることが多くの研究により明らかにされているのに対し、皮膚免疫や肺免疫はあまり全体感を持って研究されていないように感じる。胃免疫という分野が今後どのくらい発展するのかは少し楽しみなところである。